「キングダム」の王翦将軍は至高のマーケターである
※47巻以降のネタバレあり
ご存知の通り、日本には「キングダム」という世界で最も面白い漫画があります。そこでよくオタ友と「一番誰が好き?」という話になるんですが、「憧れ」という意味では僕は断トツで「信」と「王翦」将軍です(断トツといいながら二人だけど)。
まず「信」は「キングダム」の主人公なわけですが、「天下の大将軍になるのは、この俺だ!」と愚直に武功をあげまくる姿は、会社の残業やら様々な理不尽に押しつぶされそうになりながらも、「いつかは一流のマーケターになりたい…!」と夢想する私にとって憧れの存在であり、「目の前のこの仕事で、自分も武功をあげるんだ…!」と心を震わせてくれる、僕の心のメンターです。
二人目が、秦軍が誇る知略の将軍、「王翦」です。見た目はマスクとかしてて結構ヤバいんですが、これがだんだん「かっこよすぎる」「俺もこのお面かぶりたい」となるから不思議です。
「信」がマインド面での心の支えだとしたら、彼はマーケターとしての「スキル」面でのメンターです。
彼は「キングダム」52巻までの間で数々の知略で活躍してくれるのですが、その戦術眼や相手の手を先まで見通す力など、マーケターとして見習うべき点はごまんとあるのですが、特に私が衝撃的で膝を打ったエピソードがあります(ここからネタバレ)。
それが、鄴攻めです(47~48巻)。※鄴は宿敵 趙国、第二の都市
まだこの鄴攻め、52巻時点で終結していませんが、とにかくこの47~48巻でとった最初の一手がすごかった。
■そもそも「戦略」とは
と、その戦略を紹介する前に、まず「戦略とは何か」を確認します(ここからマーケティングよりの話)。
『なぜ「戦略」で差がつくのか。(音部大輔著)』によると、戦略とは「目的達成のための資源利用の指針」であると。
これは本のロジックというより私の解釈ですが、戦略が必要になる場面というのは、達成したい目的と現状にギャップがあり、「じゃあそのギャップをどうクリアしようか」という場面。つまり、必ず達成したい目的がある。だけれども、持っている資源には限りがある(限りがなければ、戦略はいらない)。「じゃあ、この資源をこうやりくりして、こうやって目的を達成しよう」という指針のが、戦略です。
そして戦略を語る上で、この本、もといこの著者(実は今の会社の入社時の最終面接官がこの人)の強調ポイントは、「いかに有効かつ人が(競合が)気付かない資源を見つけられるか」です。
■資源の4分類
「いかに有効かつ人が(競合が)気付かない資源」とはどういうことか。その前に、同著によると資源は4分類あるといいます。 以下引用。
①内部資源...組織内で保有している資源で、随時利用可能なもの。一番最初に思いつくいわゆる「資源」。
例:人材、ブランド、製品、技術、資金、営業力、時間、知識、流通、過去の施策etc.
②外部資源…自社外にある資源。ビジネスパートナーなど。
例:代理店、メディア媒体、提携先etc.
そして、ここからがミソ。
③内部資源になりそうなもの(=認識しにくい内部資源)...一般的には資源と認識されないけれども、見方を変えたり環境を整えたりすることで、立派な資源になるもの。たとえるなら、冷蔵庫のあまりもので料理を作ること(生ごみ候補⇒料理の食材=資源)。
これの例が、リプトンのティーバッグです。
リプトンのティーバッグにはホチキスがありません。これは当初、戦略的な意図がなかったものの、「ホチキスがないってことは電子レンジに入れられる⇒ミルクにティーバッグを入れてレンジでチンすれば、簡単にロイヤルミルクティーが作れる」という競合にはない強みをもたらしました。誰も目をつけなかった、認識しにくい内部資源の着目の好例です。
④外部資源になりそうなもの
例:政府、業界団体、ユーザー(インフルエンサー、ブランドのファン)、競合の動向(3位企業が1位企業の訴求に同調する、など)
とくに、この③、④は「この人がいなかったらわが社はこれを資源と認識しなかった」「競合にも認識されていない強み=差別化要因になりやすい」という性質上、強いマーケターにはこれが求められるそう。
最終面接後に聞いた話ですが、「一人分の給料で、人の十倍の資源を見つける視点を持ってる人材って、会社的にはお得でしょ」とも著者は言っていました。なるほど!
■鄴攻めの概要(ざっくり)
やっと本題に戻ります笑。鄴攻めの概要をざっくり整理すると、
①A:黒羊を目指すと見せかけて、敵国「趙」の王都圏に侵入、鄴を攻め落とす!
②(下図参照)より詳しく言うと、趙国の「蓋」こと、C:列尾を落とし、自国(秦国)の城とする。そこから兵站(食料)を補給し続け、D:鄴に攻め入るという作戦。結果、秦軍は、C:列尾城の陥落に成功。
しかし!C:列尾城は、趙国が後々奪還しやすいために、意図的に弱く作られていた!趙国の作戦は、「C:列尾城を奪還し、出口をしめたあと、Eから降りてきた援軍で、C~D~E内に入り込んできた秦国をじっくり、兵糧が尽きるのを待ちながら滅ぼす」という、驚異の作戦。秦軍、絶体絶命!
この状況に気付いてしまった天才蒙恬君
その蒙恬君をザコ扱いする桓騎様
実際桓騎将軍の言う通り、王翦将軍はC:列尾を兵站用の城として維持するのをやめ(城を捨て)、全軍で目標であるE:鄴を攻め落とせるか、自らの足で確かめに行きます。
その結果、
そして王翦将軍、悩んだ挙句ちょっと一人にさせてほしかったらしく、部下に無茶ぶりをします。
敵も結構いるんだけど…
この無茶ぶりが奏功し(?)、王翦将軍は鄴城を目の前にし、その場で一つの戦略を導き出します。
■認識しにくい資源に目を付けた至高の戦略
戦略に行く前に、ここで秦軍の目的と資源を整理すると、
秦軍の目的:鄴を落としたい!(その結果、趙の首都「邯鄲」を落としたい!その結果、中華統一をしたい!)
ここですぐに思いつく、使える資源はというと、
〇14万8千人の軍とそれを束ねる将校
〇それを賄う数十日分の兵糧…
すぐに思いつくのはこれぐらいでしょうか。ちなみにこれらはすべて、内部資源です。
ここで王翦将軍は意識的にしろ無意識的にしろ、ほかにどんな資源が使えるか、考えたのだと思います。そこでひとつの「資源」に目を付けた。それが、そこらへんの小城に住んでる民衆です。んんん?なぜ?
いち早く鄴に攻め入らなければならないのに、王翦将軍は通り道の小さい城(9つ)に寄り道しまくり、わざわざこれらを落としに行きます。
なぜ小城を襲い、かつ民衆に手出しをさせず、全員の命を救ったのか?
小城を襲ったのは兵糧を奪うため?民衆を傷つけなかったのは、正義のため?
違いました。それは、難民を発生させるためでした。
結果、難民はみな東へ東へと逃げていきます。
その難民達の行先はというと…?そこは秦軍の目的地、鄴でした。結果、鄴の城内には人が溢れます。
どういうことか。まず王翦将軍は鄴城を実際に見に行き、正攻法では攻め落とせないと踏み、目的を達成するための別の戦略を考えた。
そしてその戦略を考える際、見落としがちな、使える資源がないかも(恐らく無意識的に)考えた。
その結果、列尾城(C)~鄴城(D)にある小城9つに住む住民達が使えることを見出し(④認識しにくい外部資源の発見)、彼らを難民とし、鄴城に「詰め込み」、趙国に兵糧合戦を持ち込んだ。
どうです、天才すぎやしませんか…。他にも、王翦将軍は③内部資源になりそうなもの探しの一環で、他国の優秀な将校を戦中にもかかわらず、すぐ登用しようとしたり、軍内で育ちつつある若い優秀な目を見逃さずに、適材適所に配置し、彼らを育てます。
資源の③、④の発見が優秀なマーケターには求められる…がゆえに、この「王翦」将軍の「見えない資源の発見」にはしびれてやまないのです…。
※52巻まで読んだ方の中には、この兵糧攻めにツッコミを入れたくなる気持ちもわかりますが、私は「このときの視野と発想のクリエイティブさすごすぎない!?」という点が言いたいのです。
※余談ですが、孫氏の兵法で有名な孫武も、「百戦百勝は最上とは言えない。戦わずして相手を屈服させることが最上なのである」「①最高の戦略は謀略によって勝つこと、②これに次ぐのは外交手段で屈服させること、③その次は強大な軍事力で圧倒すること、④最低の策は、敵の城塁を攻めること」と言っています。この難民を使った兵糧攻めも、言わずもがな…。
あぁ、つくづくキングダムって、神漫画だなぁ…。原先生すごい…。